虚偽申請に対する在留資格等不正取得罪の新設の背景
入管には、虚偽のビザ申請をする人間が、少なからず存在します。
そのため、入管当局はビザの虚偽申請を徹底して取り締まろうと努力するのですが、それでも虚偽の申請をする者は少なくありません。
そこで、虚偽申請を徹底的に取り締まるため、今回の法改正で「在留資格等不正取得罪」および「営利目的在留資格等不正取得助長罪」が新設されました。
これにより、入管への在留資格の虚偽申請は非常に重いペナルティとなりました。
虚偽申請をすると、本人だけでなく、申請人本人はもとより、行政書士や弁護士、留学先・勤務先の職員など申請の取次ぎをするものに責任が広く及ぶ可能性を秘めた条文ですので、申請者だけでなく、申請取次者やビザのアドバイスをする友人、知人に至るまで、よくよくこの条文の意味を考える必要があります。
実際に、単純労働を継続させる目的を隠して、自らの事務所に通訳として雇ったと偽り申請した事案につき、虚偽の申請書で在留期間更新したとして、容疑の行政書士らが逮捕されています。
ですから、申請取次者や経営者、その他ビザのアドバイスをした友人、知人も逮捕される可能性があることを十分理解しておいてください。
在留資格等不正取得罪とは
では、どのようなことをした場合に、在留資格等不正取得罪となるのでしょうか。
これについては、入管法70条1項に規定されていますので、以下の通り引用します。
入管法70条1項 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは禁固若しくは3百万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁固若しくは罰金を併科する。
1号(略)
2号(略)
2号の2 (在留資格等不正取得) 偽りその他不正の手段により、上陸の許可等を受けて本邦に上陸し、又は 第4章第2節の規定による許可を受けた者
まず、「偽りその他不正の手段」とは、「故意をもって行う虚偽の申立て、不利益事実の秘匿、虚偽文書の提出等の不正行為の一切」をいいます。
つまり、不正行為であれば、それは全部含まれるということですので、不正が軽微であっても、また、不作為(不利な事実をあえて申告しないなど)によるものであっても、罰則の対象となる可能性があります。
ですから、「不正行為」は一般人が考えるよりかなり広い範囲で認められるとお考えください。
次に、第4章第2節には、在留資格の取得のみでなく、在留資格の変更、在留期間の更新、永住許可、在留資格の取消しなどの規定が書かれています。
ですから、在留資格に関するほぼすべての申請に適用されます。
営利目的在留資格等不正取得助長罪とは
その他、「営利目的在留資格等不正取得助長罪」も新設されています。
これは、入管法第74条の6に規定があります。
入管法第74条の6 営利の目的で第70条第1項第1号若しくは第2号に規定する行為(以下「不法入国等」という。)又は同項第2号の2に規定する行為の実行を容易にした者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
この「営利目的在留資格等不正取得助長罪」が成立するのは「営利目的で、在留資格の不正取得を容易にした」場合です。
ですから、名目の如何を問わず、実態として、在留資格の不正取得の方法をアドバイスし、報酬をもらうと、この罪が成立します。
在留資格不正取得罪に該当しうる具体例
①実態のない会社を作り、虚偽の事業計画を提出して経営管理ビザを取得した
②実際に雇っていない中国人を通訳で雇用するとして就労ビザを取得した
③就労ビザが更新できないので、日本人と偽装結婚し、在留期間を更新した
まとめ
この法改正で虚偽の申請を行えば、本人はもちろんのことこれをサポートした中国人も刑罰の対象になります。
まじめに日本に進出し、経営管理ビザで日本でのビジネスをしようとと思っている中国人にとっては、この法律の運用次第によっては、虚偽申請をする外国人が少なくなって、助かるかもしれません。
ただ一方で、入管法の条文は構成要件があいまいなため解釈も分かれていて、運用次第では処罰の対象が大変広くなることが懸念されています。
そのため、申請人や申請にかかわる会社の代表者は、虚偽申請を行わないことは当然ですが、それだけでなく、就労ビザ申請の際の事実確認を徹底する、入管への提出書類の内容の確認を徹底する等、「正しいビザ申請」が今まで以上に求められることを十分理解した上で、ビジネスを行う必要があるでしょう。