中国法人が日本に進出するための3つの方法
近年、中国企業が大阪や東京等の大都市を中心に、続々と日本に進出してきています。
そして、当事務所でも10年以上にわたり今まで数多くの相談を受け、中国の有限公司の日本進出のサポートをしてきています。
ここでよく質問を受けるのが、以下のような質問です。
「中国法人が日本進出するのに、どのような形態があるのか?またそれぞれの方法のメリットやデメリットは何ですか?」
中国企業の日本進出形態は、大きく分けると次の3つになります。
①駐在員事務所による日本進出
駐在員事務所は、外国企業が日本で本格的な営業活動を行うための準備的、補助的行為を実施する拠点として設置されます。
そのため、日本の市場調査、日本のマーケットや取引先企業に関する情報収集、事業に必要な物品の購入、日本の企業に向けた広告宣伝などの活動を行うことができます。
一方で、物品の販売等の直接的営業活動を行うことはできません。
また、駐在員事務所の設置は、登記する必要がありませんので、登記簿を調査しても駐在員事務所の有無は調査できません。
さらに、取引の主体となれない以上、駐在員事務所の名義で、銀行口座を開設すること、不動産を賃借することは、通常できません。
ですから、便宜上、このような場合は中国法人の本社または駐在員事務所の代表者など個人が代理人として、これらの契約の当事者となります。
このように、駐在員事務所設置手続きについては手続きが簡易な反面、できることが限定されるという特徴があります。
なお、駐在員事務所から代表者を含む従業員等へ給料を支払う場合には、給与支払いに関する税務関連書類の提出や、労働保険などの保険関連書類の提出が必要となる場合もありますので、ご注意ください。
②中国の有限公司の日本支店設立による日本進出
前述の通り、駐在員事務所の形態では日本企業との取引の主体にはなれません。そのため、外国企業(外国会社)が日本で継続的な取引を行う場合、日本において登記をしなければなりません(会社法第818条参照)。
そして、外国会社の登記義務等に違反した場合については会社法違反となります。
具体的には、日本で継続して取引をしようとする外国会社(中国企業等)が登記すべき期間内に登記を怠った場合には,外国会社の日本における代表者又は支配人には,100万円以下の過料に処される可能性があります(会社法第976条第1号)。ここで過料が課されるのは本社の代表取締役や取締役でなく、外国会社の日本における代表者又は支配人であることにご注意ください。
また,会社法第818条第1項の規定に違反して,外国会社の登記をせずに日本において継続して取引をした者には,会社の設立の登録免許税の額に相当する過料に処される可能性もあります(会社法第979条第2項・第1項)。
以上から、日本の法令を順守しつつ、日本の企業や個人と取引をするためには、以下の方法で登記が必要です。
(1)日本における代表者の選任の登記
(2)日本における営業所設置(支店設置)の登記
(3)日本子会社(日本法人)の登記
(4)組合の登記
日本支店は、本社の中国の有限公司によって決定された業務を日本において行う拠点であり、通常は単独で意思決定を行うことを予定されていません。そのため、外国企業の法人格の一部分、いわば手足のような存在として取り扱われます。
したがって、契約の成立や損害賠償責任等、一般的に支店の活動から発生する債権債務の責任は、最終的には中国の本社に直接帰属することになります。
なお、中国法人は中国法人日本支店の名義で銀行口座を開設することができますし、不動産の賃借をすることもできます。
そして、日本支店としての活動拠点を確保し、支店の代表者を定めた上で必要書類をそろえ、法務局で登記申請すれば日本で営業活動を開始することができます。
このように、日本支店の設置は、中国法人が日本において営業活動の拠点を設置するための簡便な方法で、よく用いられています。
ただし、日本に子会社を設置した方がメリットがある場合も多いので、日本支店の設立と日本子会社の設立とどちらがいいのか比較検討しながら手続きをすすめる必要があります。
③中国の有限公司出資による日本子会社設立
中国の有限公司が日本において子会社を設立する場合、通常は株式会社または合同会社から設立すべき法人を選択することになります。
会社法上は、一応合名会社、合資会社という法人格も認められていますが、出資者が有限責任ではなく、無限責任を負うこととなるため、実務上の不都合が多く、実際に選択されることはほとんどありません。
日本の子会社は中国の有限公司から出資を受けるだけで、中国の本社とは別個の日本法人となります。ですから、契約の成立や損害賠償責任等、一般的に日本の子会社の活動から発生する債権債務の責任は、原則として日本の子会社に直接帰属することになります。
一方、日本の子会社の活動から発生する債権債務に対して、本社である有限公司は法律に定められた出資者としての責任を負うことになります。
なお、日本での子会社設立の他に、中国の有限公司が日本法人を利用して対日投資を行う方法としては、すでにある日本企業へ増資手続きをとる形での資本参加という方法もあります。
この場合も法律上定められた所定の増資手続きを行った上で登記することにより、日本法人に経営参画することができます。
株式会社と合同会社は、出資者が出資した財産の限度で責任を負う(これを有限責任といいます)ことに変わりはありません。
ですから、合同会社であれ株式会社であれ、中国の有限公司が出資した日本の法人が顧客に販売した商品に問題があった場合や顧客から損害賠償を受けた場合でも原則的には中国の有限公司に直接責任は及びません。そのため、本社である中国の有限公司と日本の子会社の責任を切り離したい場合は日本子会社を選択する必要があります。
なお、株式会社に比べて、合同会社は自由度が高く、株式会社と違い、毎年の計算書類の確定に関する法令の規定はなく、計算書類の作成、承認の方法を定款に規定することが可能であり、決算公告をする必要もありません。
また登録免許税も株式会社が15万円なのに対し、合同会社は6万円であり、合同会社のほうが安く設立できます。
一方で、合同会社は株式会社と比べると、新しい形態の法人のため、やや信用が劣ると考える経営者もいます。
ですから、合同会社は株式会社より自由度が高い反面、ネームバリューの面でやや劣ると考えておいてください。
3つの日本進出方法のメリットとデメリット
では、以上のよう駐在員事務所、日本支店設立、 日本子会社設立のメリット、デメリットはどのようになっているのでしょうか。
これをまとめたのが以下の図です。
日本進出方法 | 駐在員事務所 | 日本支店設立 | 日本子会社設立 |
登記の要否 | 不要 | 必要 | 必要 |
収益を伴う 営業活動ができるか | できない | できる | できる |
設立費用 | なし | 約9万円 | 約20万2千円+資本金 |
資本金の有無 | なし | なし | 1円以上 (ただし経営ビザ取得の場合は原則として500万円以上必要) |
中国人の駐在員の 就労ビザ取得の可能性 | あり(※難易度は高め) | あり | あり |
会計処理 | – | 本社の所得との 合算処理 |
本社とは別に日本法人の会計処理 |
従業員の 雇用 | 可(本社との雇用契約) | 可(本社との雇用契約) | 可(日本法人との雇用契約) |
従業員の 社会保険加入義務 | 従業員5人以上から加入義務あり | 必須 | 必須 |
代表又は 取締役 | 特に定めなし | 日本に住所のある支店代表者が必要(国籍は不問) | 全員日本の非居住者の中国人でも可 |
当事務所のサービス
上記のように日本進出のメリット、デメリットを見てきましたが、実際にどのような日本進出形態が妥当かは個別のケースにより異なりますので、専門的な判断が必要です。
ですので、「自社の場合、どのような進出方法が妥当なのか?」と迷われるかもしれません。
でも、ご安心ください。
当事務所では、過去10年以上にわたり、中国企業の日本進出、中国人の起業のサポートを行ってきておりますので、御社にとってどのような日本進出方法が妥当か、アドバイスいたします。
日本進出をお考えの中国企業様はどうぞお気軽にご相談ください。