中国人の遺言の方法
近時、長期在留している中国人から、相続や遺言の相談が増加傾向にあります。
相談内容は、例えば以下のようなことです。
①私は、日本で経営管理ビザで在留している中国人です。高齢になってきたので遺言書を書きたいと思っていますが、中国人でも遺言書を書けるのでしょうか。
②私は日本語を十分に書けませんので遺言書を母国語で書くことも可能でしょうか。
③中国人の遺言の方式は日本人の場合と同じと考えていいのでしょうか。
中国人の遺言の方法は日本民法または中国法で定められた方式で行う
結論から言うと、日本に在住する中国人でも遺言をすることは可能です。遺言の方式については、日本民法または母国法で定められた方法で作成する必要があります。自筆証書遺言であれば母国語で遺言することもできます。
遺言の方式の準拠法
(1)遺言の方式の準拠法に関する法律
在日中国人が日本で遺言をする場合、注意することがあります。
遺言については、日本をはじめ、多くの国で法定要式主義が採用され、法令に定められた方式に適合していないとその遺言は無効となってしまいます。
そして、その方式については、各国で違いがあることから、遺言が適用される法律(以下「準拠法」といいます。)によっては、せっかくの遺言が、準拠法に定められた方式に適合していないという理由で無効になってしまう可能性があります。
そして、遺言の方式の準拠法については、わが国では「遺言の方式の準拠法に関する法律」で定められています。
「遺言の方式の準拠法に関する法律」は、作成された遺言の方式が後掲に挙げられた準拠法のいずれかの要件に適合していれば、その遺言の方式に関しては有効であるとするいわゆる選択的適用(連結)が採用されています。
このように準拠法について選択的適用が採用されたのは、遺言保護の観点から単なる方式上の不備を理由に遺言が無効にならないようにするためとされています。
したがって、現実には、遺言が方式上の理由で無効となることはかなり少なく、ほとんどのケースで有効となると思われます。
日本民法による遺言の方式
(1)普通の方式の遺言
遺言については、日本の民法で規定しています。
大きく分けて普通の方式の遺言と特別の方式の遺言があります。
普通の方式の遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言があります(民法967条)。
ここでは多く利用されている自筆証書遺言、公正証書遺言について説明します。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文、日付および氏名を自署し、それに押印することによって成立します。
ア 遺言の書き方など
日本語で書かなければならないと規定されていませんから、中国語で書くことも可能です。
もっとも、タイプライター、ワープロによる印字は、筆跡と比較して、後日、遺言者が作成したものであるかの判別が困難であることから自書にあたらず、無効な遺言になります。
なお、テープ等による録音による遺言は、日本の民法では認められていません。
イ 署名・押印について
署名については、もちろん中国語(簡体)で構いません。
押印については、実印、認印でも構いません。また指印でも有効とされています。
但し、署名はあるが押印のない自筆証書遺言について、原則として無効となります。
もっとも遺言者が帰化したロシア人の事案で、押印が欠けていた遺言の有効性が問題になったケースがあります。
この場合、裁判所は、「押印を要件とされているのは文書の作成者を表示する方法として署名押印することがわが国の一般的な慣行であることを考慮したものと解されるとした上で、この「慣行になじまない者に対しては、この規定を適用すべき実質的根拠はない。」として押印のない遺言を有効としました。
しかし、この判決は外国人一般に押印がなくとも遺言を有効としたものではないので、自筆証書遺言をする場合は押印または指印をした方が確実です。
また、遺言の偽造を防止するため、自筆証書遺言に加筆や削除等の変更を加える場合は、遺言者が、その変更箇所を示して変更したことを記載して、その場所に署名捺印をしなければ、その変更は効力がないとされています。
ウ 遺言書検認の申立て
なお、自筆証書遺言の場合、遺言者が亡くなった場合、遺言の内容を執行するためには、裁判所において遺言書の検認の手続を受ける必要があります。
中国人の遺言書について、日本の家庭裁判所に遺言書検認の申立てが認められるのかについては学説上は争いがありますが、審判例の多くは日本に最後の住所を有していた場合、申立てを認めているようです。
(3)公正証書遺言
外国人であっても公正証書遺言を作成することも可能です。この場合、多少の費用はかかりますが、公証人が関与することから遺言の方法に関する有効、無効の問題が生じる心配はありません。
しかし、公正証書は日本語以外では作成できないので(公証人法27)、通訳の立会いのもと、日本語で作成する必要があります(公証人法29条)。
したがって、中国人の方で、日本語がわからない場合は中国語の通訳同席の上、公正証書遺言にする必要があります。
日本民法以外の準拠法により認められた遺言も有効
以上は日本の民法にしたがって遺言をする場合を説明しましたが、先に述べたように、遺言者が遺言の成立または死亡の当時国籍を有した国の法律も準拠法となりますので、当該国の法律によっては、録音による遺言も可能になります。
例えば、韓国法では録音による遺言が認められていますので、韓国在住の中国人が韓国で遺言を行う場合、録音による遺言が有効となる可能性があります。
もっとも、準拠法の全ての要件に適合していないと、遺言書の方法に関して有効とはなりませんので、部分的には日本法に適合し、一部は他の準拠法に適合するといった場合は有効にはなりません。
ですので、遺言をする場合は、やはり、一度国際法務に強い行政書士や弁護士等の専門家に相談するとよいでしょう。
遺言の成立および効力等に関する準拠法はどうなっているのか
遺言の方法以外の遺言能力、遺言という意思表示の瑕疵、遺言の効力発生時期・条件・期限等については、遺言者の本国法が準拠法となります。
ですので、中国人の場合、遺言能力、遺言という意思表示の瑕疵、遺言の効力発生時期・条件・期限等については、中国法が準拠法となります。
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